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瀧波を創った男たち

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山形座 瀧波

南 浩史

「山形座 瀧波」の名に込めたのは、「山形県人による、山形のためのショールーム、そしてセレクトショップになりたい」という想い。

その想いをかたちにするため、「山形座 瀧波」は次の方々に創り上げていただきました。

深く感謝申し上げます。

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株式会社自遊人
クリエイティブディレクター

岩佐 十良

『山形座 瀧波』と名付けたのは、この宿が「山形」を体現する宿であるのと同時に、山形を代表する宿になってもらいたいと願ったから。限られた予算、限られた工期のためリノベーションは困難を極めましたが、建築家の井上さん、施工の寒河江さんが現場に張り付いて尽力してくれたことで、素晴らしい空間に蘇りました。空間設計上、とくに私がこだわったのは、視線の先に見える景色。駐車場だった玄関前を高い塀で仕切ることによって外部との結界を作って庭にしたり、ちょっとしたデッドスペースを庭に変えたり。窓の大きさはもちろん、地窓やルーバーの角度を工夫して、見える景色を徹底的にコントロールしたりしました。空間の抜け感を作ることも私の中では重要課題で、例えばロビー周辺で言うならば、玄関位置を変更するだけでなく、天井の高さ、壁や建具を変更することによって奥行きを創出。ロビー奥の物置スペースを竹林に変えました。

客室は「KURA」「YAMAGATA」「SAKURA」の3ゾーンに再構築。それぞれの内装コンセプトを変えるだけでなく、客室棟へ向かうアプローチでは照明計画による「期待感への演出」にこだわりました。

このような設計上の工夫は各所にあるのですが、それ以上に大切だったのは『山形座 瀧波』がこれから100年、200年と続いていくための仕掛けと仕組み作り。工事期間中、多数の従業員を私の経営する新潟県大沢山温泉の『里山十帖』で受け入れ、長期間にわたる研修を受けていただきました。特に料理長の大前さんがどれだけ吸収してくれるのかは大きな不安ではありましたが、結果から言えば全くの杞憂に。地域の風土・文化・歴史を料理に表現する「ローカルガストロノミー」とは何なのか学んでいただき、大前さんの料理は飛躍的な進化を遂げました。正直な話、大前さんの料理は東北一と言っても過言ではない内容に。花笠音頭での歓迎や夜咄会だけでなく、山形を表現する素晴らしい「料理」を提供しています。

そして最後にもう一つ。創業101年目で民事再生となった『山形座 瀧波』が奇跡の復活を遂げたのは、間違いなく現場の経営力。前経営者の弟にあたる南浩史社長の経営手腕は、一般的な旅館経営力とは全く異なります。それもそのはず、南浩史社長の前職は年商1500億円を超える有名企業の経営者。人事&労務管理、営業戦略にも長け、想定をはるかに上回る実績を出しています。将来的には経営権を前経営者の次男である宏介氏に移譲する予定ですが、その宏介氏も現在、現場と経営力を猛烈な勢いで学んでいます。開業から2年、宏介氏の顔つきは全く変わっています。

南浩史社長と次期経営者の宏介氏、そして大前料理長。この3人の現場力、そして経営力が瀧波を奇跡の復活に導きました。このあたりのドラマ、そして現場力もご覧いただければ幸いです。

この先はぜひ、現地、『山形座 瀧波』で。皆様のお越しをお待ちしています。

PROFILE

1967年東京都生まれ。武蔵野美術大学在学中(工芸工業デザイン学科インテリアデザイン専攻)の1989年にデザイン会社を創業し、のちに編集者に転身。2000 年、雑誌『自遊人』を創刊。2004年、拠点を東京から新潟・南魚沼に移転。2014年、新潟県大沢山温泉に開業した「里山十帖」では空間から食まで全てをディレクション、グッドデザイン賞BEST100に選出される。2018年に開業した「商店街HOTEL 講 大津百町」「箱根本箱」でも企画ディレクション及び運営を担う。建築、デザイン、ブランディングに長けているだけでなく、食事のメニュー開発、人材育成、さらに経営計画まで横断的にディレクションするのが特徴。2016年~2018年、グッドデザイン賞審査委員。

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井上貴詞建築設計事務所 代表

井上 貴詞

今回のリニューアルにあたって、私はクリエイティブディレクションを手がけた岩佐さんのもと、その計画の具現化に努めました。あたらしい旅館の未来をかけた「いきかえりプロジェクト」と名付けられた改修工事は、まさに「時間」とのたたかいであったと記憶しています。

そもそもが県内の古式ゆかしい建築の数々を移築再生して生まれた老舗宿のリニューアル。古い建物をより良く活かすためには、長い歴史の中でところどころ細かな増改築を繰り返したり荷物が増えたりといった「過去の時間」とまず向き合わなければなりませんでした。長くなりすぎていた客動線とスタッフ動線のいずれも全面的に見直され、お客様・スタッフ相互にとって快適で効率的な移動経路へと整理されることに。また山形を代表する文化的景観でもある「蔵」が何棟もあるものの十分にその魅力が活かされていなかったため、立派な梁組をあらわにし、それぞれの蔵(座敷蔵・板蔵・米蔵)の良さを発揮した客室群を「KURA」として改装しています。大正時代の木造校舎を利活用した客室棟は元々二棟あったのですが、うち一棟は効率化のため解体(減築)し、残った一棟を、大山桜と池泉の庭に開かれた「SAKURA」と落ち着いた坪庭に面した「YAMAGATA」という2タイプの客室群として再生しました。レセプション棟である築350年の庄屋屋敷も以前は囲炉裏ラウンジや食事処などで細かく仕切られ外の景色もままならない状態でしたが、岩佐さんの重視する視線の抜けを確保した開放的な空間として、田の字型の伝統的な座敷で竹林や蔵の景色を眺めながらゆったりと過ごせるパブリックスペースに生まれ変わりました。

限られた予算と工期の中での工事はひたすら「現在の時間」と格闘する日々で、現場のすべてを取りまとめてくださった所長の寒河江さんをはじめ、飯沢さんや諸橋さんなどそれぞれの立場で奮闘してくれた人たちがいなければ、この宿再生は為し得なかったといまだに思っています。建築はあらゆる職人技術の総結集といえるものですが、床や壁、窓に至るまでその一つ一つにそうした現場の方々の思いが宿っているはずです。建築を形づくる材料については、既存の歴史的建築を活かしながら新しい宿の心地よさを生み出す素材として、木や石などの自然素材や地元産のものを多く取り入れています。ロビーや廊下などの共用部分の床には素足で上がっても気持ちの良い東北産の厚い杉の無垢材フローリングを浮造りにして敷いているほか、一部客室床にも県内産フローリングを敷き、客室の開口部はすべて県内産の高性能な木製サッシを入れています。客室の壁や一部天井は西洋漆喰塗り、2階の客室の床は廊下を含めすべてフチなし畳です。1階の部屋の岩風呂はすべて蔵王石にしたほか、一部客室のデスク天板は地場産の杉でつくり、ロビーの一角とダイニングには、ミネラル分を多く含む山形の豊穣な大地を表現する丹色の塗り壁を設けています。建築的な側面でも大いに「山形を体現する宿」になったと確信しています。

岩佐さんが発想し、寒河江さんたちが精魂込めて創り上げた「山形座瀧波」は、日常から切り離された非日常の空間を見事に生み出していて、そこにはある「未来の時間」が流れているようです。その非日常性は、毎日が一期一会の共同体験の場として、「山形座」というひとつの劇場だといえます。

ぜひこの舞台を体験しに、一度ならず二度三度、足を運んでもらえれば幸いです。

PROFILE

1980年山形県生まれ。一級建築士。東北大学大学院工学研究科博士課程前期修了。2005年本間利雄設計事務所+地域環境計画研究室入社。2014年井上貴詞建築設計事務所設立。住宅、集合住宅、店舗、オフィス、ギャラリー、医療福祉施設、文化施設などあらゆる建築物やインテリアの企画・設計・監理を行うほか、都市計画やまちづくりに関するコンサルティング・調査・研究なども行う。そのほか、LCS共同主宰。山形大学、東北芸術工科大学、仙台高等専門学校にて非常勤講師。2013年グッドデザイン賞(YAMAMORI PROJECT)、2015年グッドデザイン賞(森の家)、2016年グッドデザイン賞(大河原の家、GLIDE GARAGE)、2019年JIA東北住宅大賞2018大賞(湯守の旅籠)など受賞多数。

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株式会社アサイ

寒河江 昇一

机も椅子もない、真新しい現場事務所。

『出来ない理由は言わない。出来る方法を考える。』
『KKDHND  K:勘とK:経験とD:度胸とH:ハッタリN:浪花節D:どんぶり勘定・・現代の建設業では悪しきものとして排除されたものを必要とする』

この2枚を張り出して、すべてが始まった。

設計図は無い、現況図も無い、工事範囲は未定、客室数すら決まっていない。半年の休業期間で再開するのは無謀というしかない。

とりあえず解体作業に着手、元々が旧家屋を移築再建して増築を繰り返してきた建造物群である。

いたるところに腐朽、蟻害、漏水、古材を継ぎ足した骨組み、幾重にも巻きついた旧い配管配線の類、屋根の下に床、その下に屋根、二重三重の壁・・・・。

全身を腫瘍に侵された重篤の患者の手術に臨む外科医の如くである。

解体が進んだある日、瀧波の事務所で大声を出した。

「どこまで壊して、どこまで改修するのか今すぐに決めてください!」

80人を超す職人がその日その日、自分ができる事を探しながら一生懸命働いてくれる。目標が定まらなければ士気が下がる。タイムリミットだった。

全貌が見えた。レセプション棟の再生と性能の向上、ダイニング棟の全面改修、そして客室は全室露天風呂付きで19室となり工事量は相当増えた。

薄皮を一枚ずつ剥がす度に当初の姿がよみがえる。全体像の目途が立ってくる。しかし、岩佐氏の要求は厳しい。もっとも古い部分を利用するにもかかわらず断熱、遮音、空調、耐久、耐震、防火と最新で最上の性能を求められ、視線のコントロール、非日常空間の創出まで求められた。

仕事は段取り八分といわれる。解体の後調査を行い、計画を立て設計に入り、設計図に基づいて積算、予算の決定を見て施工計画、資材の発注と人員の手配と順を追って進むのが常套である。しかし、これらが同時進行でなければ到底間に合わない。何もかもが見切り発車の繰り返し。順不同もいいところだ。

施主と設計者と施工者、そして現場で働く職人のうち誰か一人でも疑問を投げかけ不安に思うとたちまち現場は止まってしまう。

岩佐氏の完成イメージを皆が共有しながらも、工期、予算、出来栄えとそれぞれの立場で思惑が違う。立ち止まることはできないという一点で繋がってはいるが互いを尊重しながら究極の信頼関係がなければ成り立たない図式である。

現場を預かる身としては信頼関係を醸成維持することが肝要と腹を決めた。誰よりも早く現場に入り、最後まで現場に残る。いかなる状況でも迷いの心を表してはいけないから即決即断であり無理も過ちもあえて受け入れる。

現場事務所では連日丁々発止とわたりあう。工事が増えて工期が延びないとはありえない・気持ちを切らしたらそれまでだ・無理を承知で引き受けるのは無責任だ・未完成で客を迎えるなどありえない・まだ100日ある・まだ60日ある・まだ10日ある・明日、学会宿泊を迎える・厨房はない、渡り廊下も階段もない・仮設の通路を作り、鉄パイプで仮の階段を作ろう・風呂には入れる・よし。

遅れたとはいえ7月には本格的にお客様を迎えられた。半年間、雑感を含めて日々をノートに記録した。もう少し計画を密に立てていたら、事前の検討を重ねていたら、資材の調達を工夫していたら、予算も工期も詰めることができただろうと反省しきりである。ノートを読み返そうと開くが白いページが続く。

図面チェックに使っていたフリクションペンで書いていたからである。文字通り記録に残らず記憶に残る工事となったわけだ。

短期決戦の戦場の熱気が強烈過ぎてフリクションインクを無色にしたのだろう。

施主、設計者、施工者がまさしく一体となって成し遂げた奇跡の成果、赤湯温泉に建つ『山形座 瀧波』をぜひ訪れて頂きたい。

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ジェネラルマネージャー

須藤 宏介

瀧波は、旅館という枠に収まりません。

もちろん快適な空間や良質な湯、素晴らしい食材を生かした料理を提供することは当然ですが、瀧波が目指すのはさらにその先。

この地で受け継がれてきた置賜の文化が生きた場所であること。

そして十分一山の朝ツアーなどを通して、赤湯だけでなく山形の魅力を伝えられるステージであること。

それが、瀧波らしさだと感じていただきたいのです。

だからこそ「旅館だからこうしなければいけない」という考えにとらわれることなく、お客様をお出迎えしたいと思っています。

また、瀧波で過ごす時間が少しでもお客様のライフスタイルに響いてくれたら、と願うばかりです。

瀧波からの帰り道に山形産のお米や野菜を買ってみたり、日々の生活のなかでふと「瀧波で食べたあの料理の調理法でひと品つくってみようかな」と考えてみたり…。

山形に来たことで、お客様の生活自体が豊かになってほしい。

そんな私たちの想いまで感じていただけたら幸いです。

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料理長

大前 拓也

リニューアルを機に瀧波は大きく様変わりしましたが、食事もまた、置賜地方の伝統と新しさを伝えるひと皿として届けられるようになりました。

それは、賑やかな宴の中で楽しむ料理から素材の個性をじっくりと味わうことのできる料理へ。

私自身も基本に立ち返ることで改めて食と向き合い、素材の味に忠実な料理を提供できる喜びや手応えを感じています。

ダイニング「1/365」という名には、「その日、その時の最高の食材で食事を提供する」というこだわりを込めました。

「有機野菜ネットワーク」で繋がる生産者から届く食材は、美味を極めた質のよいものばかり。

食材の持ち味を生かし“今、ここでしか味わえない”を体現する品々をぜひ味わっていただきたいです。

これからも置賜の食文化を伝えていくことに変わりはありません。

そして生産者のみなさんが育てた伝統野菜に加え、これまでにない食材も取り入れながら、これまでとは違った置賜の表情も伝えていけたらと思います。

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山形座 瀧波 ブランディングディレクター

須藤 修

山形のショールームであること。このコンセプトを実現すべく、山形座 瀧波では滞在のあらゆるポイントで山形らしさや手仕事に触れていただける工夫を施しました。

一室一室設えの異なる部屋や建築にあわせて選定した家具や照明はもちろん、食事を提供する際の器、客室洗面台のグラス、やわらかくリラックスできる肌触りの館内着、無添加で自然な洗い上がりと香りが楽しめるシャンプー類など、身体に近い設えを中心に、細部までコーディネートやデザインを行いました。

滞在の仕方にあわせてオリジナルでデザイン・制作した品物も多く、これらは山形各地の工場や作家との協働のもと、一緒に一からつくりあげたプロダクトです。

これらひとつひとつを接点として、皆さまが心地よさや山形の伝統や今の山形らしさを感じるきっかけとなれば幸いです。

山形のものづくりは近年益々進化しつつあります。

昔からある魅力やこれからの新しい魅力を学び、これからもこの土地に根ざした進化し続ける宿でありたいと思います。